映像実習3β 第1回 オリエンテーション
コンポジット編集
映像作品、とりわけアニメーションの分野では合成などのコンポジット編集は欠かせない。この講義では、主にAdobe After Effectsを使って、映像のコンポジット編集およびアニメーション制作を学んでもらいます。
デジタル合成のワークフロー
- 企画・コンテ作成
- 最終的にどのような絵を作るのか、そのビジョンを明確にするとともに各スタッフの共通理解を得るために絵コンテを作成したり、ビデオコンテを作成する。後の作業の指令書や設計図にあたる工程。
- 合成設計
- 上のコンテ作成で立案されたアイディアを具体的にどのように制作するのかを決定しなければならない。CGでやるのがいいのか、ビデオで撮影したものを加工するのがいいのか、もしくは絵を描いた方がいいのか。そしてそれらの素材をどのように合成していくのか、具体的な作業手順を決定する。
- 映像素材作成
- ビデオ撮影したり、CGを作ったり、アニメーションを描いたりと、映像を形作る様々な素材を作成する。合成担当者はどのように合成していくのかを撮影スタッフに伝え、どのような素材が必要なのかを撮影スタッフは理解しなければならない。
- 映像素材仕込み
- 撮影された素材に対して合成前に必要な処理を行っていく。例えば、最終映像に必要のないものを消していく処理(特撮時のワイヤーなど)や、CGと実写映像のマッチムーブを行うためのトラッキング作業などを行う。
- 仮合成
- 最終クオリティのレンダリングなどは処理に大変時間がかかるため、まず用意された素材を簡易的に合成して、不具合が無いかなどをチェックする。この仮合成で最終出力への方針を決めていく。素早く様々な可能性を模索する工程。
- 最終合成
- 色補正やエッジ処理、他カットとの整合性など細かい部分に不具合がないか入念にチェックしつつ、カットを仕上げていく。
- 出力
- 最終レンダリング工程。ここで出力されたカットが編集にまわされる。出力形式は様々であるが、通常商業映像ならば連番シーケンスデータ。
- 編集作業へ
合成素材
デジタル映像では、理論的には劣化することなく無限数の映像素材を合成させることができる。ハードウェアの物理的な限界で、実際は無限とまではいかないがかなりの数の画像を使うことができ、何度でも修正を入れられる。この点がアナログ映像との大きな違いといえる。
その利点を生かして、デジタル映像作品では、素材を部分ごとに切り分け、合成して最終画面を作り出すことで様々なバリエーションを生み出すことが可能になる。簡単な例でいうと、アニメーションの場合では以下のような構成になる。
AfterEffectsだと上からレイヤーの順番
- 文字(タイトルやテロップなど)
- 光学的エフェクト(爆発や魔法など)
- 前景
- 人物A
- 人物Aの地面に落ちる影
- 人物B
- 人物Bの地面に落ちる影
- エフェクト(背景の煙など)
- 上空を飛んでいる鳥など
- 雲
- 背景
このように素材をバラバラに作っておくことで、色味、動き、大きさなどに対して個別に細かい調整を入れることが容易になる。さらにエフェクトを入れていく際にも要素毎に分けていないとかなり面倒なことになってしまう。例えば、人物Aにフォーカスして、人物Bはフォーカスアウト(レンズぼけ)してるようなカットにしたければ、レイヤーを分けていれば簡単だが、一つのレイヤーに入ってしまっているとかなり難しくなってしまう。
実写との合成について
実写映像を合成素材として使う際に必要になる工程として、いくつか考えられるのは、マスク処理、トラッキング、キーイングなどが挙げられる。
- マスク処理
- 見えて欲しくないものを隠す作業。よくあるのが、特撮映画などで、ミニチュアの飛行機を吊り下げるのに使うワイヤーとか、空中アクションで使うワイヤーなどを消す必要がある。また、設定的に存在してはまずい建築物や人物を隠したり、ガラスなどに映りこんだカメラやスタッフを消したりなどが考えられるだろう。
- トラッキング
- 映像内の動く物体をコンピュータで解析し、追跡させる作業である。そうして何点かのポイントをトラッキングすると、それぞれのポイントで差異が生じる。その差異から逆算することで、その映像を撮影したカメラの画角や動きを特定させることができる。そうして解析したカメラデータは3DCGソフトウェアに持ち込むことで、パース的に全く同一のCG画面を作り出すことが可能になる。実写映像とCGを違和感なくはめ込み合成するときの必須技術。
- キーイング
- よく知られているのが、クロマキー合成。ブルースクリーンの前で人物などを撮影し、合成ソフトなどで、背景に写っている青色を選択し透明化することで、人物だけを抜き出し、他の映像素材の上にはめ込み合成することができる。色相を元にキーイングするクロマキーのほかに輝度を元にキーイングするルミナンスキーなどがある。
参考書について
下記の参考書は辞書的に使ってください。一度さらっと全体に目を通しておいて、具体的に必要な情報を引いていくような使い方がこの本にはあっていると思います。AfterEffectsは本当にいろいろな使い方ができ、高品質の結果を得られます。このソフトを使いこなすことで、作品の品質を格段に引き上げられます。
授業で使いますので、各自この本を購入してください。この本に掲載されていることはすぐにマスターできます。アニメーション作品に使う分には、十分な内容だと思いますが、他にもっと応用的なことを書いてる本もありますので、この本で物足りなくなったらそれらを読み進んでいってください。
Adobe After Effects CS3マスターブック for Windows & Macintosh
大河原 浩一 (著)
¥ 3,360 (税込)
After Effects CS3でできること
概略
大雑把に言うと、動画版Photoshopのようなものです。動画データをAfter Effectsに取り込み、色調整、合成、編集をするためのソフトです。取り込んだ各映像素材(フッテージ)は、タイムライン上のレイヤーで管理します。このレイヤーがPhotoshopのレイヤーと似ているのですぐに馴染めると思います。After Effectsは高機能なソフトウェアで、単純に色や動画のタイミングを変えたりするだけでなく、非常に多くのエフェクト機能やアニメーション機能を持っています。ビデオカメラで撮影したビデオデータやCGソフトで作った動画などを素材に使わなくても、After Effectsだけでアニメーション作成することも可能です。最近は、After Effectsも非常に機能も増えて、アニメーション作成するのに便利なパペット機能や3ds maxやMayaなどの3DCGソフトからカメラデータを読み込んで、3次元合成などもできるようになってきました。以下、どのようなことができるか列挙しておきます。
特徴的な機能
- 3次元空間での合成
- After Effectsでは3Dレイヤーを使用して、奥行き感のあるアニメーションを作成することができます。3Dレイヤーの操作も、OpenGLの使用によって、非常に高速に行うことができます。
- カメラレイヤーの操作によって、画面に被写界深度の効果を施したり、ライトレイヤーを使用することによって各レイヤーに照明を照らしたり、レイヤーの影を他のレイヤーに落としたりすることができます。
- OpenGL
- SGI社が開発した3DCGをコンピュータ上で表示するためのインターフェイスです。グラフィックボードなどにOpenGLの機能が備わっている場合が多く、CPUを使わずに高速で処理できます。
- ベジェマスクによる自由度の高い合成機能
- After Effectsでは、ベジェ曲線を使用してマスクを作成することができます。不定形な形状の合成や、形が時間とともに変化するような形状の合成にも簡単に対応することができます。
- マスクとは
- マスクとは、必要な領域だけを選択して覆うことです。選択領域を作って、その範囲以外に加工できないようにする機能をマスキングと呼びます。
- アナログの合成写真でのマスクとは、黒い紙を切り抜いて印画紙の上に置き、ネガからの光を遮ることで感光しないようにしていました。また、プラモデルなどの模型工作においても、塗料が付かないようにテープを貼って覆ったりします。これもマスキングです。マスキング用のテープはマスキングテープといいます。
- 豊富なエフェクト
- After Effectsには、カテゴリー分けされたエフェクトが、数多く用意されています。色調を調整するようなエフェクトから、画像を変形させるようなエフェクト、パーティクルを作成するようなエフェクトまで、一般的な映像を作成するには、十分な種類のエフェクトが用意されています。
- 多くのエフェクトがアニメーション可能で、エフェクトの設定はエフェクトテンプレートとして保存して再利用が可能です。特にAfter Effects CS3では、60種類以上のエフェクトが同梱されています。
- テキストアニメーション
- テキストレイヤーの機能を使用すると、複雑な動きをするテキストのアニメーションを簡単に短時間で作成することができ、これまでの単調なタイトルアニメーションを表現豊かなアニメーションへと進化させることができます。
- テキストアニメーションのテンプレートが250種類以上用意されており、ドラッグ&ドラッグで、必要なテキストアニメーションを適用することができます。After Effects CS3では、文字ごとに3次元の動きを与えることができます。
- モーショントラッキング
- モーショントラッキングの機能は、映像の動きを検知してデータ化します。検知したデータをレイヤーに適用することで、映像の動いている部分にもその動きに合わせて他のレイヤーを合成することができます。
- After Effectsでは平面的なモーショントラッキングしかできません。この講義では、奥行き方向に追随するような3次元の動きの検出は、他のソフトウェア(Voodoo Camera Tracker)で行います。
- Adobe Bridgeを使用したファイルの読み込み
- After Effects CS3では、同梱のAdobe Bridgeを使って素材のサムネイルを見ながら必要な素材をAfter Effectsに読み込むことができます。
- Mayaや3ds maxなどの3DCGソフトとの連携
- After Effects CS3では、3Dレイヤーなdの使用時に3DCG素材の作成に使用したカメラデータを読み込んでカメラの動きなどに合わせた合成作業を行うことができます。
- Photoshop CS3のVanishing Pointの活用
- After Effects CS3では、Photoshop CS3から出力したVanishing Pointファイルを3Dレイヤーに読み込んで、静止画から遠近感のある映像を作り出すことができます。
- グラフエディタによる詳細なアニメーション作成
- After Effects CS3では「グラフエディタ」を使用して、細かいアニメーションの調整を行うことができます。グラフエディタでは、プロパティのXY座標などプロパティの要素ごとに調整することができたり、速度グラフを調整してアニメーションのキーフレーム間の速度変化を調整することができます。
- パペットを使用したアニメーション
- After Effects CS3のパペットツールを使用すると、キャラクターのイラストなどの間接構造に合わせて腕や足、表情などをパペットピンを使って変形し、アニメーションさせることができます。ビットマップの静止画だけではなく、シェイプやテキストなどにも応用することができます。
- 絵が一枚あればぬるぬる動かせてしまうので、個人的には、かなりの可能性を秘めた機能だと思っています。
- ブレインストームによるバリエーション作成
- After Effects CS3では、ブレインストームと呼ばれる、バリエーション作成表示機能が用意されています。このブレインストームを利用することで、レイヤーに適用したエフェクトなどのバリエーションを何通りも一度に試すことができます。
- 自動的に様々な設定のエフェクトを表示するので、思っても見なかった効果が見つかったりします。
After Effectsでの映像制作の流れ
- フッテージを「プロジェクト」パネルに読み込む
- 初期設定では、左にあるパネルが「プロジェクト」パネルです。
- ここに読み込まれた素材データは、「フッテージ」と呼びます。
- コンポジションを作成する
- コンポジションの作成にはいくつか方法があります。その一例を紹介します。この他にも「プリコンポーズ」を使用したときなどいろいろな場面でコンポジションを作成します。
- 画面最上段にある「コンポジション」メニューから、「新規コンポジション」を選ぶ
- 「プロジェクト」パネルの中の「新規コンポジション」ボタンをクリックする
- フッテージをタイムラインの中にドラッグ&ドロップする
- コンポジションの作成にはいくつか方法があります。その一例を紹介します。この他にも「プリコンポーズ」を使用したときなどいろいろな場面でコンポジションを作成します。
- 「タイムライン」・「コンポジション」パネルにフッテージを配置する
- 「新規コンポジション」を作成すると、「タイムライン」が現れます。その「タイムライン」パネルの中にフッテージをドラッグ&ドロップして配置していきます。フッテージをタイムラインに追加するたびにレイヤーが一つ追加されていきます。
- コンポジションをレイヤーとして追加することもできます。そうすることで、入れ子構造を作ることができ、複雑な編集が可能になります。キャラクターアニメーションをAfter Effectsで行う場合は、そのような操作をしていくことになります。
- レイヤーにアニメーションやエフェクトを適用して映像を作成する
- タイムライン内にできたレイヤーに対して、エフェクトやアニメーションを追加したり、時間軸を動かしたりして映像を作っていきます。
- コンポジションをレンダリングして完成した映像を出力する
- 編集作業が終了したら、レンダリングして動画データを出力します。
- プレビューでも確認できますが、短い時間しか動作確認できませんので、最終チェックは一度レンダリングしてみる必要があります。
- 出力するファイル形式は、AVI(.avi)ファイルやQuickTime(.mov)ファイルが一般的ですが、WEB上で使う動画データならば、WMV、FLV、MOVなどが良く使われています。
- 音を使わない映像素材として使用する場合は、連番画像で出力することもよくあります。ファイル形式は、TGAやTIFFなどが一般的です。
- 例)seian_c01_00001.tga、 seian_c01_00002.tga、 seian_c01_00003.tga…
- Flashファイル(SWF)も出力できます。
- 完成or編集作業(Adobe Premiereなど)へ
環境設定
- 画面上部、「編集」メニューのドロップダウンメニューの一番下に「環境設定」があります。
- 使用しているパソコンに合わせて設定していきます。コンピュータスタジオBのPCは、マルチコアCPUですので、「マルチプロセッサ」の項目の中の「複数のフレームを同時にレンダリング」にはチェックを入れてください。
- 「メモリ&キャッシュ」の項目の中の「ディスクキャッシュを有効にする」は、プレビュー用にレンダリングしたデータをHDD内にストックしておくという機能です。
- 使用する場合は、「D:temp」を利用してください。Dドライブ内のtempフォルダという意味になります。
静止フッテージの読み込み設定
背景用の画像データや連番静止画、新規テキストレイヤーなど、元々時間のデータが記述されているようなムービーファイル(AVI、MOVなど)や音楽ファイル(WAV、AIFF、MP3など)以外のデータをAfterEffectsに読み込むときに、どのような時間設定で読み込むのかを決めておく項目です。静止画ファイルなどを扱うときに時間の設定がおかしいと思ったら、ここを確認してみてください。