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CG・アニメーション演習4-第5回-2009

情報のつながりが物語になる


 物語とは何か

人間の感覚と意味付け

私たちは生きている間に膨大な量の情報を取り込んでいます。
しかし、それらは多すぎるのです。
リアルタイムに様々な感覚器官から大量の情報が送られてきます。
今! 自分の身体に感じている感覚に意識を集中してみてください。
視覚や聴覚だけではなく、匂いや皮膚感覚、内臓感覚、血液の流れ…。
普段あまり意識しないかもしれませんが、常にいろいろ感じています。
その中から重要なものを私たちは「感じて」いるんですね。
その他は無視しているのです。

こういった感覚が意識に上がってくると、脳はそれに対して意味付けします。
胃がぎゅ〜っと萎縮してる感覚…→「ああ今おなかが空いているんだな」
と、いう具合です。胃がぎゅ〜っとしてる…だけでは放っておけないのです。
脳は必ずその感覚に意味を探します。間違っていたとしても意味付けして納得するのです。
ここに、脳のしくみが見えてきます。

「胃の感覚」+「おなかが空いた」

と、情報をつなげているのです。情報がつながるとスッキリします。
つながっていないと、モヤモヤしませんか? それは不快です。
つながると気持ちいいのです。これが物凄く重要なポイントですので覚えておいてください。

情報がつながる

「おなかがすいた」と理解したときに、さらに「どうしてだろう?」と思います。

「そういえば、朝から何にも食べてないや」
「昨日、一昨日とカップ麺を食べた」
「カップ麺は健康によくない」
「病気はつらい」
「ちょっと栄養のあるものを食べよう」
「とんかつ定食でも食べようかな」

という風にいろんな情報が数珠繋ぎに出てきます。
脳の中で関連している記憶が紡ぎだされているわけです。

数珠繋ぎの情報の連鎖、これが「物語」です。

物語の整合性

繋がれる記憶は何でもいいわけではありません。
思い出すのは直接リンクしている情報のみです。
例えば、ここでいきなり、「ゴジラは強い」というような情報は出てこないはずです。

「おなかが空いた」
「そういえば、朝から何にも食べてないや」
「昨日、一昨日とカップ麺を食べた」
「ゴジラは強い」
「カップ麺は健康によくない」
「病気はつらい」
「ちょっと栄養のあるものを食べよう」
「とんかつ定食でも食べようかな」

あきらかにおかしい感じになります。
「ゴジラは強い」のところで連想は途切れますので、
普通はその後の「カップ麺は健康によくない」が出てこないと思います。
しかし、人は記憶する能力があるので、「おなかが空いた」に関する物語
を一旦脇においておいて、ゴジラについての物語を納得するまで進めた後、
再開させることもできます。

このように同時に複数の物語が進行する場合もありますが、
ひとつのライン上には並ばない。複数のラインで進行します。


 リンクする快感

「胃の感覚」+「おなかが空いた」
と、感覚と意味をつなげたり、記憶が連鎖して思い出されたりするといいました。
人は、一つの情報だけを記憶したとしても、それを使うことができません。
家が空中に浮かんでいて、そこにたどり着くための道が無ければ、
その家に入ることができませんよね。
記憶も同じです。関連情報が少ないとその記憶を思い出すことができないのです。

「新しい価値観」とかよく言いますが、それは今まで世の中になかった価値観ではなく、
情報に新しい道をつけたということです。そして、その道が非常に有用だったとき、
人は喜ぶわけです。「感動」するときもあるでしょう。

何が言いたいのかというと、「つなぐ」または「リンクする」ということを
企画の段階で考えてほしいということです。
「新しいリンク」は、作品に創造性をもたらします。
「新しいリンク」は、社会に問題を提起します。
「新しいリンク」は、快感を与えます。


 伏線と謎

物語では、「伏線」や「謎」を用意します。なぜでしょうか?

ここまで読んできた人は、もうお分かりだと思います。
宙ぶらりんの情報が他の道につながると気持ちいいのです。
風通しがいいと気分がいいです。

物語の終盤で伏線や謎を解決するように作ってあることが多いのですが、
これは終盤で快感を与えた方が作品の鑑賞後の感想が良くなるからです。
また、謎をチラチラ見せながら、話を進行させることで、観客をモヤモヤさせ、
興味を引き続けるためでもあります。


 何を描くか

先ほどの「おなかが空いた」〜「とんかつ定食でも食べようかな」までの
流れを作品にしても、面白くはありません。

「おなかが空いた」
「そういえば、朝から何にも食べてないや」
「昨日、一昨日とカップ麺を食べた」
「カップ麺は健康によくない」
「病気はつらい」
「ちょっと栄養のあるものを食べよう」
「とんかつ定食でも食べようかな」
「おわり」

「えぇ?これでおわり??」って思うでしょう。
なぜでしょうか。なぜこの物語では面白くないのか。
いくつか原因が考えられると思います。

・得るものが感じられない。
・新しい価値観がない。
・変化がない。
・親しみが感じられない。
・意外性がない。
・何が面白いのかわからない。
・ワクワクしない。

他にもあるかと思いますが、中身が希薄な感じがしますね。
「おなかが空いたから、とんかつ定食を食べる」
だから何!?って言いたくなる人が多いと思います。

では、このストーリーを面白くしてみてください。

・主人公を工夫する。
・設定やシチュエーションを工夫する。
・ためになる知識を盛り込んでみる。
・ギャップのある演出にしてみる。
・ツッコミを入れたくなるようなネタをいれる。

最初に話をした、「情報のリンク」というのを念頭に考えてみてください。
情報は何とリンクするか、いつリンクするか、どのくらいリンクするか、
などで効果を発揮します。

例えば、とんかつ定食から連想して、主人公をブタにして、最後にその正体がわかる
とか、おなかが空いたから連想して、主人公のおなかが無いとか。
感動ものならば、とんかつ定食を食べるということが、何か重要な思い出に関連してる
ようにするとかが考えられます。どうでしょう。

 変化の物語

新しいリンクが生まれるということは、変化しているとも言えます。
新しいリンクが生まれる物語とは、変化の物語でもあるわけですね。

物語の最初から、物語の最後にかけて、何かが変化する。
その過程が物語なんですね。
そして、その変化というのは、新しいリンクが生まれることによって起こります。
化学反応のようなものですね。
主人公や環境に、何かが加えられ変わるのです。
一人でに変わったりはしません。
外部から何かが加えられなければ、変化はありません。