作品にはそれぞれ世界がある
作品内世界のルールを考える
映像や小説などの物語のある作品には、その物語の舞台になる世界があります。人間社会がベースになっているものであれば、国や地域、法律や風習、時代や時間や季節、宗教や経済状況、物理法則などの科学、もしくはそれに準ずる哲学、言葉……などが存在しているはずです。人は世界の中で活動しているのであり、世界の法則を乱すような行いをすることは基本的にできないのです。もし、世界の法則をまったく無視して行動させてしまった場合、基準になるものを失ってしまうので、何が面白いのか視聴者はわからなくなってしまいます。
オリンピックで行われるスポーツが面白いのは、様々な制約があり、その制約中の限界をどこまで突き詰めることができるのかが競われているからです。もしくは、視聴者の肉体では実現できないようなことができる人たちが集まっているから面白いのです。その制約とは、地球に存在する様々な物理法則や人間の運動能力です。地球の重力がもっと低ければ、100mを9秒台で走ることはそんなに難しいことではないかもしれませんし、もし重力がなかったとしたら、地球そのものが存在しないことになってしまいます。
魔法のある世界を想像してみてください。もし、魔法がどんなことでもできてしまう力なのだとすれば、物語は破たんしてしまいます。ピンチになりようがないし、人も死なないですから、目標というものを設定しようがありません。自分で行動する必要がないのです。ですから、魔法のような特殊な力を設定する場合は様々な制限を加えなくてはいけません。厳しい修行をしなければならないとか、使える回数や時間に制限があるとか、力の及ぶ距離などに制限があるとかです。そうして、制限を加えると駆け引きのようなものが生れ、物語が機能するようになります。
「鋼の錬金術師」では、等価原理というルールを採用していました。何かを行うにはその効用と等価である何かを犠牲にしなければならないというルールです。誰かを生き返らせるには、その蘇生と同じ価値をもった何かを犠牲にしなければならない。それは命かもしれないし、愛情とか友情のようなものかもしれません。得をするためには損もしなければならないというルールがあるおかげで、何でもアリではなくなります。駆け引きが生れ、人々は葛藤します。
ドラクエでは、魔法を使うのにMP(マジックポイント)が必要で、魔法を使う毎に一定のMPを消費してしまいます。消費したMPは宿屋に泊って寝るか、特殊なアイテムを使用することで回復させることができます。強力な魔法はレベルが上がらないと使えないし、消費MP量も大きいというルールです。設定としては、魔法の源は精霊の力であり、その精霊の力を引き出すためには、勉強が必要なのです。
錬金術や魔法などのように現実には存在しない力を設定すると、それに伴って僕たちが生きている現実世界とはさまざまなズレが生じます。歴史、法律、社会通念、経済、文化、科学、宗教、通信手段、移動手段など、現実とは似ていても違うはずです。それらを設定するのが世界設定です。
サザエさんとドラえもんは同じ世界に住んでいない
かなり忠実に現実世界をベースにした作品でも、やはりそれぞれ世界観は違います。サザエさんの常識範囲とドラえもんの常識範囲は違います。サザエさん一家が未来社会に行ったりしたら、それはもうサザエさんではなくなってしまうのではないでしょうか。というか、サザエさん一家が住んでいる家が現在普通に分譲されているマンションに引っ越しするだけでも作品世界は壊れてしまうと思います。「サザエさん」はもうスタイルが確立してしまっていて、登場人物が行動できる範囲は限られているのです。もし、サザエさんの作品にゴルゴが登場するとしたら、かなり描写の仕方が変わるはずです。そこら辺にいる近所のオッサンみたいなキャラとして登場するような気がします。
それぞれ作品には、活動できるエリアや時空などに制限があります。その領域を何も考えずに横断することはできないのです。現代を舞台にしたアニメ作品でも、サザエさんの話として思い浮かぶもの、ドラえもんの話として思い浮かぶもの、涼宮ハルヒの憂鬱の話として思い浮かぶもの、ケロロ軍曹の話として思い浮かぶもの、ガラスの仮面の話として思い浮かぶものはそれぞれ違うでしょう。作品世界の空気感といいますか雰囲気が違うわけですね。当然といえば当然なのですが、この世界観を作り出すのは作者なので、どこまでが許されてどこからが許されないのかを決めていく必要があります。
「もし〜〜な世界だとしたら?」で考えてみる
状況設定のページでも書きましたが、世界の設定についても、「もし〜〜?」の考え方は非常に有用だと思います。まずは、「もし〜〜な世界だとしたら?」で考える。この仮定するという手法は、イメージが浮かびやすいです。
- もし、魔法が使える世界だとしたら?
- もし、江戸時代がまだ続いていたとしたら?
- もし、地上に恐竜が生き残っていたら?
- もし、世界が二次元だったら?
- もし、猿が支配している世界だったら?
- もし、重力が半分しかなかったら?
- もし、夢の世界と現実の世界が逆転していたとしたら?
- もし、ロボットだけしかいない世界だったら?
- もし、愛という概念が存在しない世界だったら?
- もし、死後の世界が存在していたら?
これらのようにまず、仮定を立ててみます。そうすると、なぜそうなったのか、その世界に生きている人たちはどのような暮らしをしているのか、どんな問題が出てくるのか……など様々な疑問が浮かんできます。それらの疑問に答えを出していけば、その世界のルールが出来上がっていくわけです。その世界に住む人たちの常識観がみえてくれば、登場人物たちがどのような行動を取ったり、どんなことを話したりするのか見えてくるでしょう。
まずは、「もし〜〜な世界だとしたら?」という仮定を作りましょう。そして次のような設定項目を埋めていきます。項目全てを埋める必要はありません。作品に必要だと思われる部分を作ればいいですが、作品によっては足りない項目もあるはずです。作品に合わせて項目を足したり削ったりして設定します。「銀河鉄道999」のように、様々な異世界を旅していく話であれば、訪れる世界毎に世界設定は必要です。
世界設定項目
- 時代
- どの時代か?(過去か、未来か、現代か)
- それは西暦何年(ぐらい)か? 架空世界であれば、現実世界でどのくらいの年代にあたるか
- この時代の特徴を示す言葉は何か? (例:産業革命、戦国時代、第二次魔法大戦時代)
- 場所
- 主な舞台はどこか? (例:日本の東京、学校、宇宙、地下トンネル都市)
- どの国か?
- どんな地域か?
- この場所の特徴を示す言葉は何か? (例;貧民窟、メガロポリス、農村)
- 世界の状況
- 平和か、不穏か?
- どういう理由で平和ないし不穏なのか?
- 国、あるいはそれに対応する概念があるか?
- 国がある場合、何カ国あるか?
- 主にどんな国があるか?
- 宗教、あるいはそれに対応する概念はあるか?
- 宗教がある場合、それは世界に影響を及ぼす力持つか?
- 宗教がある場合、どのくらいあるか?
- 主にどんな宗教があるのか?
- 民族の種類は複数存在するか?
- 主な民族はどんな民族か?
- 平和か、不穏か?
- 社会システム
- 政治体制はどういうものか? (例:王制、共和制)
- 特筆すべき政治状況は何か? (例:王と民衆の対立)
- 経済体制はどんなものか? (例:資本主義、バーター)
- 特筆すべき経済体制は何か? (例:インフレ、貿易立国)
- 貨幣は存在するか?
- 貨幣が存在する場合、どんな単位か? (例;ドル、ルピー、ゴールド)
- 政治体制はどういうものか? (例:王制、共和制)
- 家族制度
- 家族制度はどんなものか? (例:家父長制)
- 婚姻制度は存在するか?
- 婚姻制度が存在する場合、どういったものか? (例;一夫一婦制)
- 人々の暮らし
- 裕福か、貧乏か、貧富の差は大きいか?
- 主食は何か?
- 人々の一般的な生活スタイルはどういったものか?
- 社会通念
- この世界で理想とされる男性像/女性像はどういったものか?
- どういった人々が尊敬されているのか? (例:僧侶、医者)
- タブーは存在するか?
- タブーが存在する場合、どういったものか?
- 世界の法則
- 現代の世界と同じ法則で成立している世界か?
- そうでない場合、どういった世界か?
- この法則の特徴を端的に示す言葉は何か? (例:魔法、宇宙人、輪廻転生、陰陽)
- 現代の世界と同じ法則で成立している世界か?
- 言語
- 主要な言語は何か?
- その他に特殊な言語はあるか?
- 各言語の音声的な特徴は何か?
- 移動手段
- 主要な移動手段は何か? (例:車、馬車、空飛ぶ絨毯)
- その他に特殊な移動手段はあるか? (例:潜水艦、象、テレポート)
- 通信手段
- 主要な通信手段は何か? (例:手紙、テレパシー、エアーチャット)
- その他に特殊な通信手段はあるか? (例:伝書鳩、残留思念メモ)