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基礎造形力養成

基礎的な画力や造形力を身に付けるにはどうすればいいのかについていろいろ書いています。ここで対象にしているのは、会社で絵を描く仕事をしたい人です。一般的にいういい絵とは、センスがあればデッサンが巧くなくても描けますが、ゲーム会社やアニメ会社では、必ずしもそういう人を対象にしているわけではありません。就職関連情報のページに書いていますが、ゲーム系、アニメ系のデザイン職の新卒採用の際に、基礎造形力(デッサン力やデザイン力)を重要視しているところが多いです。
ここで書いている訓練は開始時期が早ければ早いほどいいです。就職について考えている人はすぐにでも始めてください。

 正しく練習すれば絵は必ず上達する

このページを読む際に心に刻んでおいてほしいことがあります。
絵はだれでも必ず上達する
です。ただし、やり方を間違ってしまうといけません。その正しいやり方とは…。
毎日、目標をハッキリ持って描く
です。まず、「毎日やること」、「描き続けること」これが最重要項目です。さらに、何を描くのか、「ハッキリと目標を持って描くこと」も重要です。

絵は脳で描いている

絵はセンスのいい人が上手いのだと思っている人が多いのではないでしょうか。そして、センスは生まれ持った才能で自分にはそのセンスがないから、絵が上手くないのだと。

これは間違いです。絵は脳で描いているのです。センスというのも脳が作り出す副産物です。センスのいい人は、赤ちゃんの頃からセンスが良かったのでしょうか。それは違うでしょう。様々な経験の蓄積の結果、センスが良いように見える行動ができるようになったのです。つまり、脳がそういう学習をしたということです。一般的な人間の脳の機能性に大きな違いは無いので、学習次第で誰だってできるはずです。重要なのは、学習や訓練によって自分の脳や身体をどのようにコントロールするかです。人間の活動全般について言えることです。学習と訓練によって、自分の可能性はカスタマイズできるのです。

よく多才な人をうらやんで、天は二物を与えたと天から降って湧いたような表現をしますが、それは間違いです。訓練したから多才なのです。訓練の仕方が分かってるということです。学習すれば自分の可能性が拡げられると知っているのです。

何故、毎日続けなければならないのでしょうか?

人間が何らかの技術や行動について上達したいなら、コツコツと反復練習する以外に方法はありません。なぜなんでしょうか。それは、脳がそういう仕組みだからです。聞いたことがあるかと思いますが、脳は記憶した出来事をどんどん忘れていく仕組みになっています。要らない情報は忘れて(というか、引き出しの奥の方にしまって)新しい情報を取り入れられる状態を作っています。大量に取り入れらる情報の中で、二度三度繰り返し体験した出来事はまた起こるかもしれませんので重要度が高い情報です。そういう重要なものは記憶を強固にし、忘れにくいようにするのです。このことを訓練に生かさない手はありません。方法は簡単で絵の反復練習をすることです。

絵を描くために必要とされる様々な経験や知識は、毎日毎日繰り返し描き続けることで強固なものとして身についていきます。さらに、何度も繰り返し行った作業は、よりスムーズに作業が行えるように神経のショートカットが形成されていきます。何度も繰り返し行った行動は、深く考えたりしなくても自然と身体が動くようになります。ゲームでも、スポーツでも最初はぎこちなくても、そのうち操作や動きを覚えるし、頭で考えなくても動けるようになりますよね。同じことが絵を描くことにも当てはまります。反復訓練をやった人は、絵の初心者と比べて、非常に早く的確に絵の完成度を高めていくことができるようになるのです。

人間の身体はうまくできていて、重要度の高い行為を上手に素早く行うために、神経系や筋肉や骨格などを同時に最適化するようにできています。その最適化される方向性の柔軟さは驚くべきものです。陸上競技を思い起こしてもらうとわかりやすいかと思いますが、短距離選手と長距離選手、または投擲競技の選手では全く違う体格をしていますよね。これらはトレーニングによる肉体改造によって作り出されています。生まれつき備わった特性もあるとは思いますが、かなりの部分は訓練によって自主的に鍛えることが可能です。絵を描いたりすることもスポーツのように脳と筋肉の連動で行う作業ですから、同じように鍛えることが可能なのです。

ただ、脳は覚えたこともどんどん忘れていってしまう性質があります。一度身に付けてもしばらく練習しないとダメになってしまいます。スポーツの世界だと1日練習を休むと取り戻すのに3日かかるといわれています。できるだけ毎日描き続けてください。

目標をハッキリ持つこと

どんな修行でも、アバウトだったり、なんとなく…というような気持ちで取り組んでいては、成果が出ません。取り組む対象には具体性が必要です。
「これのための練習をしているんだ!」
とハッキリ自覚して行うことで、成果が数段増します。
それはなぜか?
目標がハッキリしていると集中力が増すということもありますが、もっと単純な理由があって、目標がなければ、反省材料が作れないからですね。反省材料がなければ、改善するところがありませんから、ただ手を動かしてるだけになってしまいます。自分の絵のどこが弱いのか、またはどこが間違っているのか、ちゃんと意識して行動するのとそうでないのとでは進歩に大きな差が生まれます。闇雲に手の運動をしているだけでは、絵はうまくなりませんよ。「描く行為≠手の運動」です。これから行うカリキュラムをやるときに、ハッキリと目標を立ててから描くようにしてください。

描いたスケッチブックなどはできれば、他の人に見せて意見を聞いてください。そのときに、ただ褒めてもらうだけでは意味ありません。ここをこうするともっと良くなるとか、具体的な指摘を言い合える友達がいればベストです。しかし、指摘をするためにはある程度絵を見る力ができてこないと難しいかもしれません。自分より絵が上手だと思う人や教員に意見を求めるといいでしょう。そうして、反省材料を明確にし、次の目標を作っていってください。自分の欠点=改善すべき目標です。目標のハッキリしている人は伸びます。

基礎体力づくりと理論の理解

現場で求められている「画力」とはどのようなものでしょうか?
それは、まずスラスラと絵が描けることだと思います。アイデアが絵として描けるということです。ビジュアル脳とでもいうようなものを持ってる人になることが重要だと考えます。その次に理論ではないでしょうか。言葉を発するのと同じように絵を描ける能力を持っていないと、理論をマスターしても魅力的なものになりにくいですし、使いこなせないでしょう。

というわけで、まずは基礎体力をつけることから始めましょう。とにかく量をこなしてください。ひたすら描きまくってください。そして、お手本を用意してそれを見ながら描くことと、何も見ないで描くことをやってみましょう。どっちかに偏るとマズイと思います。見て描く、見ずに描くを大量にこなして描画の基礎体力をつけます。上に書きましたが、脳や神経を鍛えるためには反復訓練が欠かせません。頭でわかったつもりになっても描けません。ちゃんと目で見て、手を動かして、紙に描くことを行ってください。描きながらいろいろな発見があるでしょうし、見る力が備わってくるでしょう。

その次に、理論です。例えば、人体構造についてや、パースなどの知識、色や光についての知識、材料や道具の知識、文化や社会や科学技術についてなど、絵を作り出すのに必要なものは無限にあります。とりあえずは、光や色についてよく知ること、パースについて知ることから始めてみましょう。(パースも突き詰めると光やレンズの仕組みの話になり、物理学にいきつくでしょう)

描き方がわからないという前に、目の前のものを写して描くということをやってください。たくさん描けば、そのうち何が問題だったのか具体的にわかるようになってきます。描くということは、見るということなのです。

よい作品を知ること

絵のことだけに限りませんが、良いものを知るというのも非常に重要です。自分一人で創造していくことは並大抵のことではありません。より上質なものを創り出すために必要なものは貪欲に取り込んでください。絵画が生まれて現在まで非常にたくさんの絵が生み出されてきました。今も誰かがいい絵を描いていることでしょう。それらをたくさん見て知ってください。ジャンルはできるだけ偏らないようにした方がいいでしょう。アマチュアのアニメやマンガに興味をもってる人は、そればっかりになってしまう人が多いですが、それではアニメやマンガの限界を越えることは難しいです。他ジャンルのアイデアや技法を持ち込むことで、新しい何かが生まれることが多いです。マンガを読むこと、展覧会にいくこと、何かイベント的なものに参加すること、ネットを徘徊すること…などいろいろ情報源はありますが、刺激的なものを見て感じて、そしてそれが自分の創作に生かせないか常にアンテナをはってください。

楽しく描くこと

楽しくないと上達しません。嫌々やってると脳がうまく機能しないそうです。(参考URL「好きこそものの上手なれの秘密」
好きなことをやっているとき、楽しいことをしているとき脳内ではA10神経というものが活性化し、脳内快楽ホルモンが分泌されます。簡単に言うと「気持ちいい」のです。気持ちいいことを脳は求めます。気持ち悪いことは避けようとします。一度いい思いをするとその気持ちいい状態を覚えて、また脳は気持ちよくなりたいと考えます。人間の身体は気持ちいい状態をまた作り出すために全力で活動できるのです。

これが好循環で機能するパターンを書くと、
絵を描く > ほめられた=気持ちいい > また気持ちよくなりたい > 絵を描く > 上達する > ほめられる・・・
このようになります。「ほめられる」としましたが、これは他の報酬でも構いません。お金が稼げたや友達ができた、笑ってくれたなど何でもいいです。価値があると思えることが起こると、A10神経が活性化し快楽物質が分泌されます。これが逆になると、悪循環になります。

楽しく描くようにしましょう。楽しくないなら、楽しくする工夫をしてみてはどうでしょうか。

ハードルは低いものから高いものへ

いきなり最終ハードルを越えようとしてはいけません。確実に挫折を経験するでしょう。

例えば、健康のためにジョギングを始めようとしたときに、限界ギリギリのコースを設定してしまうと絶対に長続きしません。確実に走れて少し負荷がかかるくらいのコース設定が適切です。しばらく続けているとだんだん身体が慣れてきて、長い距離でも走れるようになってきます。そうなったら、少し距離を伸ばしていくのです。

確実に越えられるハードルを設定していってください。最初は簡単すぎると感じるものでも構いません。ただし、ハードルをクリアしたら次は少しでもいいのでハードルを高くしてください。ハードルをクリアしていくことが自信につながっていきます。細かい自信の集積によって大きな自信が作られるのです。ジョギングのコース設定のように、絵の練習のプログラムを決め、実行する習慣をつけるといいでしょうね。

ポジティブシンキング

http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0901/28/news114.html
なぜ、○○ができないのか?」というネガティブ系に考えるのではなく、 「どうしたら○○ができるのか?」というポジティブ系の考え方をするようにしましょう。「なぜ、人の絵がうまく描けないのか」ではなく、「どうしたら人の絵をうまく描けるんだろう」です。
「〜できないのか」も積極的だと思う人もいると思いますが、「〜できない」というネガティブな言葉が思い浮かんだ瞬間、脳内ではポジティブに感じられないのです。「〜できる」という言葉は、脳をポジティブにします。

ネガティブな要素は誰でにでもあり、それを改善することでよりよい状況を生み出せます。つまり、自分の欠点は自分の克服すべき目標であり、本来的な意味で生きることに必要なものなのです。欠点を無視したり放置してはいけません。無視してるつもりでも、心の奥でくすぶってしまいませんか? 良い企業は、自社製品についてのアンケートなどの調査をします。そうするといろいろな欠点を指摘されます。その欠点は製作時に見つけることができなかったポイントであり、それを克服すればさらによい製品にすることができる目標になります。欠点を積極的に見出し改善していく姿勢があれば、作れば作るほど完成度が高くなっていくはずです。このことは、人の慢心が成長の障害になることを表しているのです。慢心して克服すべき点を見出すことができなくなったとき、その人はそこで成長終了です。つまり、欠点を見つけられるということが成長の鍵になっているのです。積極的に欠点を見つけ、克服するために何ができるか考えてください。

カリキュラム内容

 スケッチブックを絵(スケッチ)で埋め尽くす(3冊以上)

まずは、「スケッチブックにひたすら絵を描きまくる」をやってください。毎日描き進めてください。どんなに忙しくても必ず1ページは埋めるつもりで描き進め、時間があるときや調子のいいときは数ページ埋めましょう。

スケッチブックは、1ページにひとつの絵を描くのではなく、寄せ書きのように埋め尽くすつもりで様々な絵を描きまくってください。人物をいろいろなアングルで描いてもいいですし、車や動物を描いても構いません。その際に参考資料を見ながら描くといいでしょう。想像で適当に描くのではなく、写真などを参考にして描いて下さい。そのまま模写のように描いてもいいんですが、参考画像などをアレンジして描くのも楽しいでしょう。カメラ位置を変えて、違うアングルから描いてみるとかやってみるといいと思いますよ。上の方からや下の方から見たときの絵に変えてみるんです。ここで重要なのは、あくまで「アレンジ」であって、何も見ないで適当には描かないようにします。

画力とは、「見る」力と「描く」力の両方が備わっている力です。ただ漠然と見ているのは、見えているとはいいません。絵を描く人に求められているのは、どこまで理解できているかです。見ながら描くことを繰り返すことでその基礎力が鍛えられると思います。

ある程度、見て描くことを続けて描いたら、今度は何も見ないで描いてみてください。オリジナルのキャラクターや空想の風景など、実際に存在するものでなくても構いません。自由に描いてください。資料に頼らないで自分の中から生みだす力を鍛えておくときっと役立ちます。それに、自分がどれだけデッサンの理解ができているかチェックすることもできるでしょう。

あとは、楽しんで描いてください。もしくは、楽しくなるような工夫をしてください。楽しくない絵なんて意味がないですから。

 スケッチブックに模写

まずは普通に模写

スケッチブックを3冊埋め尽くすことができたら、だいぶ絵を描く脳みそに変わってきているはずです。そこで次の段階は、「模写」です。
今度は、今までやっていたようななんとなく資料を参考にするのではなく、キッチリと似せて描くようにします。右利きの人であれば、左にお手本を置き、そのすぐ右隣にスケッチブックを置きます。そして、形、大きさ、色ぐあいなどできるだけ丁寧に描き写します。これは、かなり集中力を必要とします。一日1時間半とか2時間とか時間を決めて取り組むのがいいかもしれません。そして、描き始めたらその絵が出来上がるまでは、毎日描いてください。最初は、写真などをモノクロコピーして、モノクロのお手本を使って鉛筆で模写しましょう。それで慣れてきたら、カラーのお手本でも模写してみてください。

お手本を逆さにして模写

そして、ぜひやってほしい模写の方法がひとつあります。それは、お手本を逆さにして描くことです。上下逆さまにしたお手本を左に置き、右においたスケッチブックに逆さにしたまま、見たままを描き写します。お手本に何が描いてあるのか、写真であれば何が写されているのか、考えずに描くようにしてください。見えている色や形、空間の大きさのみを純粋に追いかけてください。

例えば、人物の写真を使った場合、顔や手足などが見えると思いますが、がんばって、それが顔だとか手であるということを忘れて純粋に形や色として見るようにするのです。写っているものの意味や名前を考えないでください。おそらく、逆さ模写は、頭の中を掻き回されたような感覚を覚えると思いますが、それでいいんです。脳が未知の体験をしてフル回転していることでしょう。同様にお手本を90度回した状態にして模写したり、斜めにした状態で模写したりと、普段常識的に見ているのとは違う状態にして模写することで、素直に模写をすることができます。

絵の初心者の人は、人物を描くと頭が大きくなったり、足が短くなったり、目を大きくしてしまったりしてしまいます。どうしてかというと、自分が関心を持ってるものは印象が大きいので、無意識に大きく描いてしまうからのようです。「人物を描くんだ」と意識してしまうと、単純に形や色として見れなくなってしまうんですね。頭はこうだ、目はこうだと、自分の頭の中で勝手に解釈して形を歪めてしまうのです。思い込みです。同様に正面の顔しか描けないとか、横顔しか描けないという風に決まった角度からしか描けないのも同じような理由も含んでいると思います。お手本になっているものを見たまま、素直に描くことができれば、どんなものでも描けるはずなのです。それができないのは、描く対象を自分が思い込んでいる他のものと頭の中ですり替えてしまうからです。

そこで、お手本の絵や写真を逆さにしてみます。そうすると、普段見慣れない状態の絵になって、変な思い込みや常識を外して描きやすくなるんです。例えば、人物の写真を逆さにして模写することを想像してみてほしいのですが、一見、逆さの人物を描くのって難しそうとか考えてしまいませんか? もし、そう思ってしまう人は、模写をする精神状態ではなくなっていると考えていいです。模写は、見たまま素直に描き写せばいいのですから、お手本は何でもいいんです。お手本を人物の写真だと思ってしまうからいけないのです。人物の代わりに、岩がそこにあったとしたらどうですか? 違和感をあまり感じなくなるような気がしませんか? そういう素直な精神状態、クールに対象を見つめられるようにならなければなりません。それができるようになって、はじめて客観視ができるようになり、デッサンの狂いが見つけられるようになるんです。

見たものを素直にそのまま描く力を身につけてください。ただの狂いを個性とか味だとかで誤魔化さないでください。

模写は、好きな人と嫌いな人に分かれてしまうかもしれません。嫌いな人はここで脱落してしまうかもしれないし、飽きてしまうことも考えられます。そういう人は、また上のお気楽スケッチブックの方に戻るのも手ですが、キッチリ描く技術がないと職業デザイナーとしては不安が残ります。模写が嫌いじゃない人も毎日模写ばかりではしんどいでしょう。なので、また新しいスケッチブックを購入し、上のお気楽スケッチブックと交互にやるといいです。

絵画力を鍛えるのに便利なサイト

Pose Maniacs
30秒間いろいろなポーズが表示される「30秒ドローイング」や、輪郭を残して塗りつぶされた絵を描く練習など、絵を描く練習をするためのツールが公開されてます。利用するといいでしょう。

 デッサン

模写で1冊スケッチブックが埋まったら、デッサンをやりましょう。
模写をやらないでデッサンをやってもいいです。お好きな方で構いませんが、デッサンと模写は似てるようで似てない作業です。敷居は、模写の方が低いです。それは、模写が平面から平面に描き写すのに対して、デッサンは立体を平面に描き写す作業になるので、空間を解釈する力を必要とします。すでに、デッサンをたくさんやってきた人は、苦にならないかもしれませんが、受験時代と違って、大学に入ってしまうとなかなか集中するのが難しい場合も多いと思います。そういうときは、友達同士でデッサン室を借りて複数のメンバーで取り組むのをオススメします。

デッサンは、就職の際の材料として非常に有用…というか必須でしょう。がんばって、自分の実力をPRできるものを描き上げていってください。たくさんあればあるほどいいでしょう。

おまけ

デッサンを描き進めるときのイメージ映像です。

いきなり、アウトラインを描いてしまうのではなく、全体をぼんやりつかみ、徐々に明確にしていくようにしましょう。よく輪郭線を最初に描いてしまう人がいますが、個人的にはオススメできません。線を引いてしまうとその線に惑わされてしまうからです。描き始めは、情報が少なく、また観察している時間がまだ少ししかありませんので、正確な形を取るのは無理です。疑わしいものは疑わしいものとしてボンヤリ描きましょう。そして、少しずつハッキリさせていくのです。

もう一つ、イメージ映像の中で注目してほしいのは、全体を見ているという点です。デッサンが下手な人は、一部分に意識を固着させて動かせない人が多いです。顔を描いていると顔ばっかり描いていて、身体が全然描けてなかったりするアレです。絶対に止めましょう。作品であれば、そういう描き方も成立するかもしれませんが、正確な描写を求められるデッサンでは、その描き方をすると絶対にうまく描けないでしょう。全体を少しずつ描いていってください。というか、鉛筆の動きは最初画面いっぱいに動くかのように大きいストロークとなります。

例えば、目の前にペットボトルがあったとします。これを描くときにペットボトルしか見てなかったり、更に悪い場合だとフタから描きだす人がいます。これは最悪です。まずどこに置かれているのか意識してください。もっと言うとどういう空間に置かれているかに注目してください。屋外でしょうか?屋内でしょうか? 蛍光灯で照らされていますか? どこから照らされていますか? テーブルは何色ですか? テーブルは反射していますか? などなど、視野を広く持ってください。そうすれば、ペットボトルのフタだとか、ラベルだとかは些細なものでしかないでしょう? 部屋全体を見て、テーブル全体を見て、その上にモチーフがある。さらにもっとよく見るとジュースが入っていたりします。メガネをかけているひとは、外して見てみてください。目のいい人は焦点を外したり、目を細めたりしてください。細かいところなんか見えなくなりますよ。その状態で見えているものがまず重要です。ぼや〜〜としてるものを最初につくる。色の濃淡を描く。黒い部分がどのような大きさか。だいたいの位置関係を作ります。そのときにハッキリ線を描かないで、ぼやーっとしておくのがコツです。それが出来上がったら、少しずつハッキリさせていくのです。僕はデッサンをやるときは、まさしく上のイメージ映像のような感覚で描いてます。デッサン初心者の人は参考にしてみてください。

 超精密模写

スケッチブックにいろいろな絵を描いたり、模写やデッサンをしたりとある程度、進んだら、一度じっくり取り組むことをオススメしたいのが、この超精密模写です。「超」をつけているのはこの課題に取り組むときの気分を表したかったからです。まさしく自分を越えるために行う儀式です。この課題については、直接話した方がわかってもらいやすいので、やりたい人は僕に直接聞いてください。もしくは、すでに僕から聞いた人にやりかたを聞いてやってみてください。しんどいですが効果絶大ですよ。

 パース画

風景を描く際に知識として知っていて欲しいのは、パース(透視遠近法)です。
まずは、風景写真を使って何枚か模写かトレースをやってもらって、パースを感覚でつかんでください。その後、パースを解説した本などを読み、透視遠近法の知識を身に付けてください。いきなり本を読まずに、まずは模写などをしながら自分流のパース術のようなものを考えておくのがコツです。そして、本を読んだら、実際に自分で試してみてください。今度は模写をするのではなく、遠近法を使ってオリジナルの風景を描いてみてください。最初は簡単なものからはじめて、だんだん複雑にするのがいいでしょう。また、まず模写をやり、そしてお手本の写真には存在しない建築物を追加したり、人物を配置したりしてみてください。写真の中に存在するパース線や地平線を見つけ出すことができれば、自由に加工していくことができます。

 人体クロッキー

素早く描く訓練として、クロッキーは非常に有効です。絵を描くとき、ダラダラと時間をかけてしまいがちですが、長時間つかって絵を描いたからといっていい絵になるものではありません。短時間に集中して素早い筆跡で描くことでのびのびとした生きた絵を描くことができるでしょう。また、上に挙げたスケッチブックにたくさんの絵を描く課題では、小さい絵を描くことが多くなると思います。そればかりだと伸びやかな線を描く力が育たなくなってしまう可能性があります。クロッキー帳にのびのびと大きく長いストロークで描くことも、やはり必要なのではないかと思います。

毎日でなくても、週一回10分とか20分とかで構わないので、クロッキー会のようなものをやるといいでしょう。もしくは、家族を描くといいかと思います。

 カラーイラスト(アナログ)

PC上で着色するのではなく、水彩絵の具などを用いて絵を描くのも非常によいと思います。スケッチブックに鉛筆ばかりで描いているとマンネリ化しますし、絵の具の発色は他には代えがたいものです。たまには、絵の具を使って絵を描いてください。もちろん、就職活動などでゲーム会社などに持ち込むものとしては、かなり有効です。描画スキルを見るときには、デジタルの絵よりもアナログの絵の方が参考になることが多いです。

 色彩構成・平面構成

上のカラーイラストに近いのですが、色を見る力を身につけるためのトレーニングです。自由自在に色を使いこなすためには、やはり色を使って絵を描くことをたくさん経験しないとだめです。そのときに特に身につけたいのは、明度を見る力です。明度とは、色の明るさのことです。同じ色相の明度の違いを見るのは簡単ですが、色相の違う色の明度を見抜くためには、それなりに訓練が必要です。

例えば、青系の色と赤系の色があったとして、その2色の明度の違いをちゃんと見分けられますか?

これができないと、色の構成ができません。明度を自由にコントロールすることができれば、画面の中で目立たせたいモチーフを浮かび上がらせたり、逆に背景に溶け込ませたり自由自在にできます。人間の視覚は、物体の存在を判断するときに、色相よりも明度の方を参考にしているようです。立体感を自由にコントロールするためには、微妙な明度を見抜く力が必要だと思います。これは、訓練すれば身に付きますが、自分で合ってるかどうかをチェックするのが難しいかもしれません。Photoshopなどでグレースケールに変換すればわかりやすいですし、僕に見せてくれればチェックします。

あと、画面の構図を決めるときにも明度が重要になります。どこに暗い部分を持ってきて、どこに明るい部分を持ってくるのか。空間の抜けを生みだしたり、目の前に迫ってくるような迫力をだしたりと、空間を作り出す重要な要因ですので、明度を意識した画面づくりをしましょう。僕の経験からすると、考えなしに画面内の明度の構成がバラバラしているとうまくいかない場合が多いです。構成において、色味も重要ですが、しっかりした画面はグレースケールに変換しても成立していることが多いことを覚えておいてください。

明度の訓練方法

画塾などでよく行われているスタンダードな方法です。まず、モノクロのグレースケールを作ってみます。できれば、PCでやるよりも、ポスターカラーやガッシュなどの不透明水彩絵の具を使ってやってください。不透明水彩の特徴として、濡れているときと乾いているときで色が変わりますので、少し慣れが必要です。

  • まず、5段階のグレースケールを作ります。
    1. 横一列に並んだ5つのマス目を画用紙に鉛筆などで描きます。
    2. 一番左の枠に純粋な黒、一番右の枠に純粋な白を塗ります。このとき、水加減に注意してできるだけマットな色面になるようにしてください。
    3. 真ん中の枠に白と黒のちょうど中間のグレーを塗ります。
    4. 左から2番目に黒と中間グレーの間のグレー、右から2番目に白と中間グレーの間のグレーを作ってそれぞれ塗ります。

grayscale5.gif
これがもっとも簡単な黒から白へのグレースケールです。
5段階のグレースケールができたら、9段階のグレースケールをやってみてください。
grayscale9.gif
9段階のグレースケールができたら、19段階のグレースケールをやってみてください。
9段階は比較的簡単ですが、19段階のものはかなり苦労すると思います。モノクロでも19段階くらいになってくると、隣の色と自分が作っている色の違いがなかなかわかりにくくなってきます。すべてのマス目が同じくらいの明度差になっているのが理想です。

次に、作ったグレースケールの上隣や下隣に同じ数のマス目を描き、今度は赤色の色相で行います。枠に塗るときは、隣り合ったグレーと同じ明度の色を作り、塗るようにしてください。うまく色が作れると、隣のグレーとの段差がなくなり色がつながります。これも9段階のもの、19段階のものとやってみてください。赤ができたら、紫青緑黄オレンジ…とやれば、色相を1週してすべての色相での黒から白への変化を体験したことになります。注意してほしいのは、純色(他の色を混ぜてない色)での明度は色相によって異なることです。紫より黄の方が明るいです。白を同じだけ加えたからといって同じ明度になるわけではありません。その色が一番鮮やかな明度はそれぞれ違います。

試しにやってみました。色相も彩度もランダムに適当に選んで配色してあります。注力してあるのは、明度だけです。
grayscale18.gif
モニターによって発色が違うので、うまくいってないかもしれません。
ちなみに、上の絵をPhotoshopで彩度0に変換してみると、濃さがちがっていました。僕の色の見方がおかしいのかどうなのかわかりませんが、肉眼でモニターを見て同じ明度になるように色作りをしてみた結果です。彩度が高かったり低かったりするだけで、明度の印象が変わります。僕の個人的な経験では、彩度が高いと明るく感じる傾向があります。

明度差を見比べるコツですが、目を細めてぼんやり見て境界線が見えなくなれば、同じくらいの明度です。一発で色を作るのは難しいので、何度も濃くしたり薄くしたりを繰り返して、2色の明度差ができるだけ少なくなるように調整します。何度か訓練していくと、明度に対して敏感になってくると思います。

この明度差を見分ける力がしっかり身につけば、目の前の景色が違って見えてくるはずです。交通標識の青と赤のどっちが明るいか、陽に照らされている髪の色と横断歩道の白線のどちらが明るいか…など、思いこみに誤魔化されずにちゃんとわかるようになるでしょう。

明度差を生かした絵作り

人間は物体を認識するときに、色の違いで識別してます。カメレオンなどの保護色の機能をもった動物を発見しにくいのは、体の輪郭がわかりにくくなるように、体表の模様を変化させるからです。つまり、物の輪郭は色の違いによって見分けているんですよね。輪郭がはっきりするようにしたければ、色を違わせる必要があります。色相、彩度、明度、それぞれ違っていれば違っているほど見分けやすいといえます。

しかし、明度差が離れた色ばかりになってしまうと、形はハッキリしますが画面全体がチカチカしてしまいます。明度差の少ない色でまとまりを作ることも必要です。明度差の少ない配色と明度差の大きい配色を作ってください。

色の配色をするときには、明度差がある色を隣に配置すると、色が際立って見えます。逆に明度差の近い色を隣におくと、色が目立ちにくくなります。ですから、色を印象付けたい場合は、明度差が作れるように画面内の要素を工夫するといいです。

  • 一つの色が主張するクッキリした単色の美しさ
  • 連続した色の微妙な変化(グラデーションなど)による美しさ

どちらも重要です。ハッとする美は、どちらにも存在するのがわかるでしょうか。

色面の大きさを考える

何も考えずに色面を分割していくと、画面全体の色面の大きさを一様に揃えてしまう人がいます。そうすると、画面に抜けを作りにくくなったり、空間の拡がりが出しにくくなったりします。色面の大きさに変化をつけることで画面にダイナミックな動きの感じを与えることができます。逆に変化を無くしていけば、動きが少なくなり、静かな印象になります。

形の変化

明度差が大きい色面の境界線に変化を与えると、画面に動きが生まれます。変化のある形、リズムに変化のある形を考えます。

 イラスト投稿サイトに投稿する(pixivなど)

これは、モチベーションアップにつながる方法としての提案です。
Pixivなどの画像投稿サイトを利用するというものです。他のサイトや自分のホームページを立ち上げてやっても構いません。ブログなどを利用してもいいでしょう。誰かが自分の絵を見てくれていると感じることができれば、励みになりますし、他の人の絵を見れば刺激も受けることができるでしょう。さらに、外部に発表すると自分の頭がリセットされて、自分が描いた絵を客観的に見れたりする副産物もあります。積極的に発表していってください。